結論から言うと、前面道路の私道持分がないからといって、それだけで実家が売れないと決まるわけではありません。
ただ、私はこの状態で、いきなり私道所有者へ「持分を売ってください」「承諾書に印鑑をください」と話を持っていくことは勧めません。必要かどうか分からない交渉を先に始めると、かえって話を難しくすることがあるからです。
最初に確認したいのは、次の5つです。
- 建築基準法上、どの道路に接しているのか
- 私道を誰が所有し、実家に持分が本当にないのか
- 通行をどのような根拠で続けてきたのか
- 給排水管やガス管がどこを通り、工事時の扱いはどうなるのか
- 再建築と住宅ローンで、何が判断材料になるのか
この5つは似ていますが、別の問題です。「私道持分なし」という一言だけで結論を出さず、順番に切り分けます。
まず知っておきたいのは「私道」と「建築基準法上の道路」は同じ話ではないこと
不動産の調査では、公道か私道かという所有・管理の話と、建築基準法上どの道路に当たるかという建築の話を分けます。
建築基準法第42条は同法上の道路を区分し、第43条は、原則として建物の敷地が道路に2メートル以上接することを定めています。
つまり、「見た目は普通の道路」「毎日問題なく通っている」「舗装されている」というだけでは、道路種別や再建築の可否までは分かりません。反対に、私道だから直ちに再建築できないとも言えません。
小金井市の道路種別は、東京都多摩建築指導事務所の指定道路図やインターネットの道路種別情報で確認できます。ただし、東京都もオンラインの道路台帳は参考資料であり、正確な調査や境界確認が必要だと案内しています。
売却を考え始めた段階では、まず道路種別図で当たりを付け、実際の売買では資料と窓口確認を重ねる。このくらいに考えた方が安全です。
最初に集める資料は5種類
全部そろっていなくても構いません。あるものを机に並べるところから始めます。
- 土地・建物と前面私道の登記事項証明書
- 公図、地積測量図、建物図面
- 購入時の売買契約書、重要事項説明書、覚書
- 通行や掘削に関する承諾書・協定書
- 上下水道やガスの配管経路が分かる資料
親が長く住んだ家では、購入時の書類が見つからないこともあります。その場合は、記憶で「昔から通っているから大丈夫」と埋めず、何が見つかっていて、何が足りないのかを分けます。
ここで一度整理しておくと、不動産会社や専門家へ同じ説明を何度も繰り返さずに済みます。
確認1 私道の所有者と持分
「持分なし」と言われたら、まず登記を見ます。
前面の道が一筆とは限りません。入口と奥で地番が分かれていたり、複数人が共有していたり、近隣宅がそれぞれ別の部分を所有していたりすることがあります。
確認するのは、少なくとも次の点です。
- 私道を構成する土地の地番
- 現在の登記名義人
- 共有なら持分割合
- 売却する実家に付随する持分の有無
- 過去の売買で持分が移転されなかった経緯が資料に残っているか
法務省の「所有者不明私道への対応ガイドライン(第2版)」は、共有私道の保存・管理や工事で問題となる事例を整理しています。ただし、これは「持分がなくても当然に通行・掘削できる」と保証する資料ではありません。
持分がないことと、通行できるか、工事できるかは、次の確認へ進めます。
確認2 通行の根拠と書面
次に見るのが通行です。
購入時の重要事項説明書や契約書、通行承諾書、覚書に、誰が・どの範囲を・どの目的で通行できると書かれているかを確認します。書面が見当たらなければ、過去の取得経緯や現在の利用状況も整理します。
ここで注意したいのは、「通行承諾書がなければ絶対に売れない」「長年通っているから書面はいらない」と、どちらにも決めつけないことです。
物件ごとに私道の形、所有者、過去の契約、利用の経緯が違います。必要な書面や確認先も同じではありません。
私なら、不動産会社から「私道なので承諾書が必要です」と言われたときは、もう一歩聞きます。
- 何のための承諾なのか
- 現在ある資料では何が不足しているのか
- 誰から、どの範囲の承諾を得る想定なのか
- 買主や金融機関へどう説明するのか
この説明ができるかどうかは、売却を任せる会社を見る材料にもなります。
確認3 掘削と配管
今、家で水道やガスが使えていることと、将来も同じ条件で工事できることは別です。
古い家を売ると、買主が建替えや大きなリフォームを考えることがあります。そのとき、給排水管の交換や新たな引き込みで私道を掘る可能性があります。
先に確認するのは、承諾書を取りに行くことではなく、配管の現状です。
- 本管と引込管がどこを通っているか
- 隣地の管と共用していないか
- 過去の工事資料が残っているか
- 掘削について既存の覚書や協定があるか
- 私道所有者が複数なら、誰が関係するのか
配管位置が分からないまま一律の承諾書を作っても、必要な内容とずれることがあります。まず資料と現地を合わせます。
持分を伝え直したら、50万円の承諾料が不要になった
私が都内で扱った売買で、位置指定道路に接する物件がありました。その物件には私道持分がありましたが、再建築に備えて、道路内を通る埋設管について通行・掘削の承諾を整えることになりました。
私道に関係する会社へ相談すると、いったん「社内で確認します」と言われました。その後の回答は、「一律50万円をいただいています」というものでした。
通行・掘削の承諾で金銭を求められたのは、10年以上売買実務をしてきた中でも、このときが初めてでした。弁護士や東京都の担当窓口にも相談し、相手の事情も踏まえて妥協点を探りながら交渉してみては、という助言を受けました。
そこで会社へ電話し直し、対象物件には私道持分があることを改めて伝えました。最初の受付では、その点がうまく伝わっていなかったようです。「持分があるなら大丈夫です」という回答に変わり、結果的に金銭を支払わず、通行・掘削の承諾を得られました。
その会社から受けた説明では、持分のない方からの依頼には一律50万円という扱いでした。ただし、これは一社で経験した個別の金額です。承諾料の相場でも、法律で決まった費用でもありません。
最初に金額を提示されても、すぐに支払う話へ進めるのではなく、相手に何を依頼しているのか、こちらに持分があることが伝わっているか、既存の書面で足りないのかを確かめます。承諾に費用がかかる場合はありますが、持分や依頼内容の行き違いで話が変わることもあります。
承諾書がなくても進められる場合と、実際に工事してもらえるかは別だった
この件では弁護士にも相談しました。私が受けた説明は、条件を満たすなら、私道所有者の承諾を取るのではなく、工事の目的・場所・方法を事前に通知して進められる可能性がある、というものでした。
民法213条の2は、他人の土地に設備を設置しなければ電気・ガス・水道水などの供給を受けられないとき、必要な範囲で設備を設置・使用できると定めています。ただし、損害が最も少ない場所と方法を選び、所有者と実際の使用者へ事前に通知することが条件です。法務省の資料では、通知時期の目安は事案により2週間から1か月程度と説明されています。
法務省の説明では、この権利が成立する場合、いわゆる承諾料を支払う義務はないとされています。一方で、工事による実際の損害に対する償金や、他人の設備を使う場合の維持費などは別です。また、相手が拒んだ場合に強引に掘ってよいという規定でもありません。妨害があるときは、保全処分などの法的手続が必要になる場合があります。
私の案件では、水道は承諾書がなくても進められる可能性があるという感触でした。しかし、ガス会社からは「通知による方法があることは分かるが、会社のルール上、承諾書がなければ工事はしない」と言われました。
そこで、最悪の場合は水道だけを通知の手続で進め、ガスを引かずにオール電化とする案まで考えました。実際にその方法で工事をしたわけではありません。ただ、法律上進められる可能性があることと、設備会社が工事を受け付けることは別だと実感した事例でした。
法務省「民法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について」
確認4 再建築できるか
再建築の可否は、私道持分の有無だけでは決まりません。
建築基準法上の道路種別、接道の長さ、道路の現況、セットバック、過去の建築確認などを確認します。オンラインの道路種別図だけで最終判断せず、必要に応じて建築士や東京都多摩建築指導事務所へ確認する範囲です。
古い実家の場合、「建物を解体して更地にすれば売りやすい」と先に考えがちです。しかし、再建築条件と買主像を確かめる前に建物を壊すのは戻しにくい判断です。
建物を残すか、更地にするかを考えている場合は、古家付き土地を解体前にどう比べるかも先に確認してください。
確認5 買主の住宅ローン
再建築できることと、どの金融機関でも同じ条件で融資を受けられることは同じではありません。
金融機関は、物件の担保評価や権利関係、通行・掘削の資料などを個別に確認します。持分を買えば必ず融資が付くとも、持分がなければ現金の買主にしか売れないとも決められません。
売り出す前にすべての金融機関へ確認するのは現実的ではありませんが、少なくとも「どの資料を買主側へ渡せるか」は整えておきたいところです。
資料がそろっていれば、買主や金融機関が判断しやすくなります。曖昧なまま募集を始め、申込み後に問題が分かる方が、売主にも買主にも負担が大きくなります。
前原町で、私道持分が借り換えの壁になったことがある
私が小金井市前原町の新築戸建てを扱ったときのことです。その新築へ向かう私道は長く、共有者が何十人もいました。
道の途中には、私道持分を持っていない中古戸建てがありました。その所有者から、「今回の新築の売主が持っている私道持分を、一部譲ってもらえないか」と相談を受けました。
その方の説明では、私道持分がないことが担保評価上の問題になり、住宅ローンの借り換えができず困っているとのことでした。私が確認できたのは所有者からの説明までで、金融機関の審査資料を見たわけではありません。それでも、持分の有無が融資の判断で現実に問題になった相談でした。
新築の売主へ持分の譲渡を相談しましたが、応じてもらえず、結局その方は持分を取得できませんでした。
この私道は共有者が多く、連絡先をたどりにくい名義も含まれていました。全員から新たに承諾を整える方法も、簡単ではありません。
この経験から、私は「今まで通れているから問題ない」とは考えません。持分がないことは、売却時だけでなく、所有中の借り換えや将来の工事で弱い立場になる可能性があります。そして、必要になった時点で持分を買おうとしても、相手が応じるとは限りません。
ただし、私道持分がなければ必ず融資を受けられない、という意味ではありません。金融機関は道路種別、接道、通行・掘削の根拠、担保評価などを個別に見ます。だからこそ、売却前に「持分がない」という事実だけで終わらせず、買主側の融資判断に必要な資料まで確認しておく必要があります。
私道持分がないとき、先にしない方がよいこと
私は、次の動きを急がない方がよいと考えています。
- 道路種別を確認せず「再建築不可」と決める
- 必要性が分からないまま持分購入を申し出る
- 配管位置を確認せず、ひな型の掘削承諾書へ署名を求める
- 現在通れていることだけで、買主にも問題がないと説明する
- 調査前に建物を解体する
- 問題を伏せたまま売り出し、契約直前に説明する
売却前に急がない方がよい判断は、家の売却でやってはいけないことでもまとめています。
また、私道と一緒に境界や塀、配管の越境が見つかった場合は、越境のある不動産の確認順と分けて整理してください。私道持分と越境は、同時に出てきても別の論点です。
不動産会社へ確認したい6つの質問
査定を依頼するときは、価格だけでなく、次を聞くと話が具体的になります。
- 前面道路の建築基準法上の種別は何か
- 私道の地番と所有者をどこまで確認したか
- 通行・掘削について、どの資料があり何が不足しているか
- 給排水管の経路をどう確認するか
- 再建築と融資で、買主へ何を説明する予定か
- 私道所有者へ連絡するなら、何を確認してから、誰が、どの順番で話すか
「私道持分がないので安くなります」だけでは、まだ説明が足りません。どの問題が価格や買主の判断に影響するのかを分けてもらいます。
まとめ 持分購入より先に、5つを切り分ける
私道持分なしの実家でも、持分がないという一点だけで売却不可とは決まりません。
先に整理するのは、道路種別、所有者と持分、通行、掘削・配管、再建築と融資です。必要な確認が終わってから、私道所有者への連絡や書面の取り直し、持分取得が本当に必要かを考えます。
実家の売却では、問題を小さく見せることより、買主が判断できる資料をそろえる方が大切です。分からない部分は分からないままにせず、登記、過去の契約書類、道路資料、配管資料を並べてください。
法律上の通行権、承諾の要否、契約の解釈は個別事情で変わります。不動産会社だけで結論が出ない場合は、内容に応じて建築士、司法書士、土地家屋調査士、弁護士、道路・建築担当窓口へ確認します。
民法213条の2は2023年4月1日に施行された現行規定です。法令と法務省ガイドは2026年8月3日に再確認しました。権利の成立、通知先・通知時期、償金、設備会社の施工条件は物件ごとに異なるため、弁護士、道路・建築担当窓口、各設備会社へ確認してください。
よくある質問
私道持分がない家は、住宅ローンが使えませんか?
持分がないことだけで一律に決まるものではありません。道路種別、接道、通行・掘削の根拠、担保評価などを金融機関が個別に判断します。売主側は、判断に必要な資料をそろえておくことが先です。
通行承諾書と掘削承諾書は必ず必要ですか?
どの物件でも必ず同じ書面が必要とは限りません。私道の所有状況、既存の契約や覚書、配管経路、買主・金融機関の確認内容を踏まえて判断します。
私道持分を買えば問題は解決しますか?
持分取得だけで、道路種別、接道、通行、掘削、融資の問題がすべて解決するとは限りません。先に不足している条件を特定し、本当に取得が必要かを確認します。
小金井市の道路種別はどこで確認できますか?
東京都多摩建築指導事務所の指定道路図や、東京都の道路種別情報を参照できます。ただし公開情報は参考資料です。売却や建替えの判断では、対象地を特定したうえで正確な調査と窓口確認を行います。
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