借地権付きの実家でも、売却できる可能性はあります。
ただし、最初にするのは地主への連絡でも、売却査定でもありません。借地契約書を探し、建物の所有者と借地人の名義、地代、更新、譲渡の条件を確認することです。
借地権が絡む売買では、私は契約内容が分からないまま地主へ話を持っていくことを勧めません。「家を売りたいので承諾してください」と先に伝えた後で、名義や契約条件が想定と違ったと分かると、話を戻しにくくなるからです。
地主に隠して進める、という意味ではありません。何を相談するのかを整理してから話す。その順番が大事です。
まず手元に集めたい資料
全部がそろっていなくても、あるものから確認します。
- 借地契約書と、更新・変更時の覚書
- 土地と建物の登記事項証明書
- 固定資産税の資料
- 地代の金額、支払先、支払い状況が分かるもの
- 更新時期と更新料の記録
- 地主または管理者の連絡先
親が長く住んでいた家では、契約書が古い、途中の覚書だけ見当たらない、地代の振込先しか分からないこともあります。資料が足りないなら、分からない部分をそのまま書き出します。記憶で埋めない方が安全です。
「借地権」という言葉だけで、地主の承諾が必要とは決められない
借地権付きの家と聞くと、「売るには地主の承諾が必要」と考えがちです。しかし、借地権には土地賃借権と地上権があり、同じ扱いではありません。
実際の住宅では土地賃借権が問題になることが多いものの、この記事では契約書を見ないまま決めつけません。まず、何の権利に基づいて土地を使っているのかを確認します。
土地賃借権を第三者へ譲渡する場合、民法612条との関係を確認する必要があります。契約書に譲渡、転貸、増改築、建替えの条項があれば、その内容も読みます。
契約書に難しい表現があっても、その場で自分なりの結論を出す必要はありません。「書いてあること」と「分からないこと」を分け、借地権の売買を扱う不動産会社や、必要に応じて弁護士へ見せます。
建物の所有者と、借地契約の名義人を別々に見る
次に確認するのは名義です。建物の登記は亡くなった親のまま、借地契約はさらに前の世代のまま、ということもあり得ます。反対に、家族が地代を払っているからといって、その人が建物所有者や借地人とは限りません。
ここが曖昧なままでは、誰が地主と話し、誰が売主になるのかを決められません。
- 建物の登記上の所有者
- 借地契約書に記載された借地人
- 相続後に名義の整理が済んでいるか
- 地主または管理者が、現在の借地人をどう把握しているか
地代と更新は、金額より「経過」を確認する
地代は、いくら払っているかだけでは足りません。誰に、どの方法で、いつまで支払っているか。滞納はないか。更新はいつで、そのとき何を取り交わしたか。分かる範囲で時系列にします。
古い借地契約ほど、当初の契約書だけでは現在の条件が見えない場合があります。更新時の書類や地代変更の通知があれば、一緒に確認します。
- 現在の地代と支払先
- 未払いの有無
- 契約期間と更新時期
- 更新時に交わした書類
- 譲渡や建替えに関する取り決め
承諾料についても、割合を先に決めつけない方がよいです。今回確認できた資料だけでは、どの案件にも当てはまる一律の数字は出せません。
古い建物をどう売るかは、借地契約と切り離さない
建物が古いと、「解体してから売った方がよいのでは」と考えることがあります。ただ、借地上の建物は、通常の所有権の土地に建つ古家と同じ順番では考えられません。建替えや増改築に条件があるか、建物を取り壊した後にどうなるか。そこを確認せず、解体だけ先に発注するのは避けます。
一方で、建物の状態を把握しなくてよいわけでもありません。雨漏り、傾き、設備、残置物など、買主へ説明するための確認は必要です。借地権付きの場合は、建物状態と借地契約を一緒に判断します。
建替えの承諾は出ない。それでも中古戸建てを使い続ける買主が見つかった
私は借地権付きマンションの売買も経験しています。ただ、建替えの承諾が出なかったのはマンションではなく、ここから紹介する中古戸建ての案件です。
都内の駅から歩ける範囲で、寺院が地主の古い借地権付き中古戸建てを売却したことがあります。地主の回答ははっきりしていました。
「借地権を譲り受けて購入することは承諾する。ただし、建替えは承諾しない」
かなり古い建物だったため、建替えを前提に検討した方とは条件が合いませんでした。問い合わせがあっても、地主の条件を説明すると話が止まる。借地権付き物件では、価格以前に、買主の利用計画が地主の条件と合うかを見なければならないと感じた事例です。
その後、海外生活から日本へ戻る予定の家族の住まいとして、購入を検討する方が現れました。現金での購入でしたが、大きな価格交渉が必要でした。
買主は、建替えるのではなく、内装を全面的にリフォームして、今の建物を引き続き大切に使いたいと考えていました。一方、売主もその家を大事にしてきた方です。
買主から、なぜこの家を買いたいのか、これからどう使っていきたいのかを書いた手紙を受け取り、私が売主へ届けました。価格だけを見れば簡単な交渉ではありませんでしたが、「この人なら家を大切にしてくれる」という部分で気持ちがつながり、成約になりました。
もちろん、手紙を書けば売れるという話ではありません。地主が認める条件に買主の計画が合い、価格面の調整もできた。そのうえで、建物への思いが最後の判断材料になった事例です。
この経験から、借地権付き物件は、広く問い合わせを集めるだけでは決まらないことがあると思っています。地主の条件を受け入れられる人、建物をどう使うかが売主の考えと合う人。買主像をそこまで具体的に考える必要があります。
地主へ相談する前に、不動産会社と「何を聞くか」を決める
資料が集まったら、借地権の売買経験がある不動産会社へ見せます。ここで売出価格だけを聞くのではなく、地主に確認すべき事項を整理します。
- 譲渡について、契約上どの確認が必要か
- 買主に引き継ぐ契約条件は何か
- 地主へ提示する前に整理すべき名義や未払いはないか
- 建物を現状のまま売る場合に、何を説明するか
- 承諾が得られない場合、どこから弁護士へ確認するか
「地主へ早く言った方が誠実だから」と、条件を固めず先に連絡する。反対に、「承諾は後で取ればよい」と買主募集を始める。どちらも話がこじれる原因になります。
地主の承諾が得られない場合、裁判所の許可制度がある
土地賃借権の譲渡について地主の承諾が得られない場合、借地借家法19条には、裁判所の許可を求める制度があります。東京地方裁判所は、借地非訟事件の一つとして「土地賃借権譲渡又は転貸の許可申立事件」を案内しています。
ただし、承諾が得られなければ必ず使える、申し立てれば必ず許可される、という話ではありません。契約内容や譲渡の条件を確認したうえで、弁護士へ相談する範囲です。
小金井市・多摩地域で借地非訟を検討する場合
小金井市を含む多摩地区の借地事件は、東京地方裁判所立川支部民事第4部が扱うと案内されています。裁判所の手続案内には、賃貸借契約書、土地・建物の固定資産評価証明書、住宅地図などが申立時の資料として挙げられています。代理人へ依頼する場合は弁護士に限られます。
制度を知っておくことは大切ですが、最初から法的手続を前提に地主へ強く出る必要はありません。まず契約と名義を確認し、話し合う内容を整える。そのうえで必要なら専門家へつなぎます。
借地権付きの実家で、先にしない方がよいこと
- 契約書を見ず、地主へ売却条件を約束する
- 建物所有者と借地人の名義を確認せず、査定や売出しを進める
- 承諾料を相場だけで決めつける
- 建替え・解体の条件を確認せず、工事を発注する
- 地代や更新の経過を記憶だけで説明する
- 「承諾が出ないなら裁判」と最初から話を決める
借地権付きだから売れない、という結論を急ぐ必要はありません。一方で、普通の中古戸建てと同じ資料だけで進められるとも限りません。
まとめ 地主へ連絡する前に、契約・名義・支払いを並べる
- 借地契約書と更新・変更書類を探す
- 建物所有者と借地人の名義を照合する
- 地代、更新、譲渡、建替えの条件を確認する
- 借地権の売買経験がある不動産会社へ資料を見せる
- 地主へ何を確認するかを整理してから話す
- 承諾や法的判断が問題になる場合は弁護士へ確認する
実家じまい全体の中では、借地契約の確認は片付けより先に置きたい作業です。家族の意向、名義、荷物、売却の順番を一緒に整理すると、抜けを減らせます。
借地借家法第19条と裁判所の手続案内は2026年8月3日に再確認しました。地主の承諾に代わる許可が認められるか、財産上の給付が付されるかは個別判断です。申立てを検討する場合は弁護士へ確認してください。個別の承諾の要否、契約の解釈、借地非訟の利用可否、税金や登記は案件ごとに異なります。不動産会社、弁護士、司法書士、税理士など、必要な範囲を分けて確認してください。
よくある質問
Q. 借地権付きの建物は売却できますか?
売却できる可能性はあります。ただし、借地権の種類、契約内容、建物所有者と借地人の名義、地主の承諾との関係によって進め方が変わります。
Q. 売却の話は、最初に地主へ相談した方がよいですか?
地主への相談は必要になり得ますが、先に契約書、名義、地代、更新、譲渡条件を確認した方が話を整理できます。条件が分からないまま具体的な約束をしないことが重要です。
Q. 地主が承諾しない場合は売れませんか?
土地賃借権の譲渡については、借地借家法19条に裁判所の許可制度があります。ただし、利用できるか、どのような結果になるかは個別判断です。弁護士へ確認してください。
Q. 借地権付きの古い家は、解体してから売るべきですか?
解体を先に決めず、借地契約の建替え・増改築・建物に関する条件を確認します。建物状態と売り方は、借地権の扱いと一緒に判断します。
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