建築確認の図面では、玄関の上に床がない。それなのに現地を見ると床があり、一つの部屋として使われている。
最近、古い戸建ての売却相談で実際にあったことです。私は登記事項、以前の売買資料、建築確認関係図書を机に並べ、最後に建物を見て、初めて面積と形の違いに気づきました。
未登記建物があるからといって、売買契約が直ちにできなくなるとは限りません。ただし、何が登記に反映されていないのか分からないまま広告を出すのは危険です。建物全体が未登記なのか、一部の増築が反映されていないのか。それとも資料ごとの面積の捉え方が違うのか。まず、そこを切り分けます。
今回の案件は現在も販売準備中です。融資や成約の結果はまだ出ていません。ここでは成功談を作らず、売出し前に何を見つけ、どう判断したかだけをお伝えします。
まず見るのは「何㎡違うか」より「どこが違うか」
登記簿と現況の数字が違うと、すぐに「未登記増築だ」と考えたくなります。しかし、面積差だけで建築上・登記上の扱いまでは決まりません。
今回も、私が確認できたのは三つの事実です。
- 登記上の建物面積と建築確認関係図書の面積に差があった
- 図書では床のない部分に、現況では床があった
- その場所は部屋として使われていた
ここから先の法的な扱いは、図書一式や現況をさらに確認して判断する領域です。面積差があるという事実と、その差をどう評価するかは分けなければなりません。
東京都の既存住宅売買ガイドでも、中古戸建ては増築などによって登記簿記載面積と実際の面積が異なる場合があると示されています。古い家では、登記簿の数字だけで建物を見終えないことが大切です。
売出し前に並べたい4種類の資料
私は次の4種類を同じ机の上に並べます。一つずつ見るより、横に置いて比べた方が差を見つけやすいからです。
| 確認するもの | 主に見る内容 | 差があったときの次の確認 |
|---|---|---|
| 登記事項証明書・建物図面 | 所在、種類、構造、床面積、所有者 | 登記されている建物の範囲 |
| 固定資産税の課税明細等 | 課税対象の家屋と床面積 | 登記面積・現況との違い |
| 建築確認関係図書 | 当時確認された配置、各階の形、床面積 | 現況と違う場所、増改築の記録 |
| 現地の建物 | 床、壁、部屋、用途、増改築の形跡 | 図書にない部分の位置と使われ方 |
家を購入したときの売買契約書、重要事項説明書、間取り図、増改築時の見積書や工事記録が残っていれば、それも捨てずに出します。今回、昔の売買資料が残っていたからこそ、現在の登記・図書・現況を比較できました。
売却時の書類全体は、不動産売却の必要書類を整理した記事でまとめています。最初から全部を取り寄せるのではなく、まず家に残っている資料を探してください。
未登記部分が売却に影響する3つの場面
1.広告と買主への説明
増築未登記部分がある場合、登記面積だけを広告に載せれば終わり、とはなりません。買主が現地で見る建物と資料上の建物を対応させ、どこにどのような差があるのか説明できる状態が必要です。
不動産流通推進センターの実務資料は、増築未登記部分の位置・面積等を広告や重要事項説明で扱う際の留意点を示しています。実際の表示と説明は、確認できた資料を基に仲介担当が組み立てます。
2.買主の住宅ローン
未登記部分があり、その結果として建ぺい率・容積率の超過が確認された物件では、買主の住宅ローン審査に影響が出ることがあります。ただ、超過があるだけで全金融機関が一律に融資不可とするわけではありません。
2026年8月時点、私が仲介実務で個別照会先の候補として考えるのは、多摩信用金庫、三井住友銀行、宮崎銀行などです。これは各行が公表している一律の取扱基準ではなく、「この銀行なら通る」という意味でもありません。超過の程度、増築時期と資料、担保評価、申込人の返済能力、自己資金、保証会社、支店・担当部署、商品、相談時期で回答は変わります。
売主側で先回りしたいのは、銀行名を広告に並べることではなく、確認済みの事実を一枚にすることです。
- 登記面積、確認図書の面積、現況面積
- 未登記部分の位置・用途・増築時期と資料
- 建ぺい率・容積率の計算根拠と超過の程度
- 是正・登記の可否と費用・期間
これを用意して、買主候補が売買契約を結ぶ前に金融機関へ個別確認・事前審査を行います。売却活動では、物件に合う融資先を仲介側が調べ、買主へ確認経路を示せるかが大事です。
金利も一律ではありません。三井住友銀行の公式案内でも、審査結果によって融資利率が異なる場合があるとされています。通常の優遇条件から外れる、別の商品になる、借入比率を下げるため自己資金が増える、といった場合は資金計画が変わります。自己資金を増やせば審査の余地が生まれることはありますが、承認を保証するものではありません。
今回の案件も融資結果はまだ出ていません。候補行へ一律に持ち込むのではなく、最新の担当者回答を取り、物件ごと・買主ごとに確認します。
3.建築上の扱い
床が増えたように見える場合、建ぺい率や容積率などの確認が必要になることがあります。ただ、現地で床を見つけただけでは結論は出ません。建築確認関係図書、増改築の時期と内容、現在の形をそろえ、必要に応じて建築士や行政へ確認します。
私が怖いと思うのは、問題がある可能性そのものより、担当者が差に気づかないまま価格と広告を先に決めてしまうことです。後から説明や融資条件が変われば、売主も買主も予定を組み直すことになります。
誰に何を確認するか
窓口を一人に丸投げせず、質問を分けると話が早くなります。
| 確認先 | 主な確認内容 |
|---|---|
| 仲介担当 | 資料と現況の調査、広告表示、買主への説明、販売条件 |
| 土地家屋調査士 | 建物の表示、床面積、必要となる登記の種類や資料 |
| 建築士・行政 | 現況建物の建築上の扱い、追加調査の要否 |
| 金融機関 | 確認済みの差を前提にした買主融資の取扱い |
法務省の「不動産登記のABC」にあるとおり、登記は土地・建物の所在や面積、所有者などを公示し、取引の安全と円滑を図る制度です。具体的にどの登記が必要かは建物の状態で変わるため、申請の結論は土地家屋調査士や法務局へ確認します。
登記してから売るかは、調査の後で決める
「未登記なら、とにかく先に登記」という順番が常に正しいとは限りません。まず差の場所と理由を調べ、そのうえで次の三案を比べます。
- 必要な登記や是正を済ませてから売る
- 確認済みの事実と条件を明示して売る
- 建物を残す売り方と、土地として扱う売り方を比較する
どの案になるかは、建物の状態、買主像、融資、売主の期限と費用で変わります。古いからと先に解体すると、建物を使いたい買主を失うこともあります。古家付き土地の売り方も、解体前に現況渡しと更地渡しを比べる考え方です。
今回、私が最初にしたのも、登記や解体の発注ではありません。残っていた資料を読み、現地で床と部屋を見て、差を見つけることでした。
未登記建物の売却で最初に必要なのは、慌てて答えを出すことではなく、資料上の建物と目の前の建物を一致させる作業です。差が見えれば、誰に何を聞くべきかが決まります。販売価格を考えるのは、その土台を固めてからです。
