近隣トラブルがあっても、家が売れないと決まったわけではありません。ただし、価格を下げれば済む話でも、買主に一度伝えれば終わる話でもありません。
私は以前、近隣住民の迷惑行為が売却理由になった中古戸建を担当しました。問い合わせはかなり入りました。それでも、事情を説明すると断られる。その繰り返しでした。
この経験があるので、私は売主が知っている事実を「この程度なら言わなくてもいい」と自己判断するのが一番危ないと思っています。
私が担当したのは、家の周りにごみが投げ込まれる戸建てでした
都内の駅徒歩圏にある中古戸建でした。以前、私の先輩が購入時の仲介を担当した家で、所有者から売りたいと連絡があり、私はそのとき初めてお会いしました。
売却理由を聞くと、近隣住民が敷地へ入ってきたり、汚物や吸い殻、ごみを投げ込んだりするという話でした。家の周りにも、投げ込まれたものが残っていました。
所有者は、購入したときにはその話を聞いていなかったそうです。当時の担当者が知っていたかどうかは分かりません。購入時の価格は周辺相場より安かったのですが、安かった理由が近隣問題だったとも断定できません。
私は地域名、詳しい駅距離、価格、当事者の年齢や性別は書きません。個人を特定することが、この記事の目的ではないからです。
問い合わせは多かった。でも、説明すると断られました
売主の希望は、買ったときと同じくらいの金額で売りたいというものでした。周辺では新築がもっと高い価格で売られていたため、物件だけを見れば割安に感じられます。問い合わせはかなりありました。
ところが、近隣問題を説明すると、購入を見送る方が続きました。ここは大事です。問い合わせが多いことと、事情を理解したうえで買える人が多いことは、まったく別です。
「安ければ誰かが買う」と考えたくなりますが、近隣トラブルは金額だけで吸収できないことがあります。毎日そこで暮らす話だからです。
「大丈夫」と買った方から、約1年後に連絡がありました
その後、近くのマンションから戸建てへの住み替えを考えていたご家族が問い合わせてきました。近隣問題は説明しました。購入される方は、話を聞いたうえで「大丈夫」と判断し、家を買いました。
ところが約1年後、その方から連絡がありました。実際に住んでみると、聞いて想像していた以上だったそうです。防犯カメラを付け、警察も何度も呼んだものの、改善しなかったと聞きました。
私としても、事前に説明した以上、あとから近隣住民の行為を止めることはできません。それでも、電話を受けたときは重かったです。その数か月後、家は別の不動産会社から売りに出ていました。
説明して買主が納得したから、それで必ず大丈夫とは言えません。言葉で聞くことと、実際にそこで暮らすことには差があります。
告知義務があるかを、売主だけで決めない
「近隣トラブルは、どこから告知義務があるのか」と聞かれても、私は一律には答えません。普通の生活音なのか、繰り返される迷惑行為なのか。今も続いているのか、すでに解決しているのか。警察や自治体、管理会社への相談履歴があるのか。次の所有者にも影響する可能性があるのか。事情は家ごとに違います。
国土交通省も、売主や所有者しか分からない過去の履歴や性状について、告知書を買主へ渡すことが将来の紛争防止に役立つという考え方を示しています。
だから、売主が先に「これは言わなくていい」と線を引くのではなく、知っている事実を早い段階で仲介会社へ渡してください。そのうえで、何をどのように買主へ説明するかを決めます。必要なら、弁護士など専門家の判断も確認します。
「騒音がある」を「音が時々する」に弱めない
不動産適正取引推進機構の紛争事例には、管理会社から「太鼓の騒音が発生している」と報告されていたのに、重要事項説明では「太鼓の音が時々発生している」と表現を弱めたケースがあります。
買主は入居後、実際の状況は聞いていた内容と違うと主張しました。調整委員も、表現を緩める合理的な理由が見いだしにくいという所見を示しています。
近隣問題を「少し変わった人です」「たまに音がします」と丸めると、受け取る側は実際より軽く考えます。私が担当した家でも、「大丈夫」と考えて買った方が、あとから想像以上だったと感じました。
仲介へ伝えるときは、評価ではなく事実に分けた方がいいです。
- いつから続いているか
- 何曜日の何時ごろに起きるか
- どのくらいの頻度か
- 実際に何をされたか
- 警察、自治体、管理会社などへ相談したか
- 写真、動画、メール、相談受付番号などの記録があるか
- 現在も続いているか
記録のために相手の敷地へ入ったり、挑発したりするのは避けてください。手元にある事実を、時系列で整理するだけでも十分に役立ちます。
売り方を決めるのは、事実を整理した後です
近隣トラブルがあると、すぐ値下げや買取を考えがちです。しかし、私は先に事実を整理します。解決を待つのか、事情を説明したうえで仲介を続けるのか、内見時に買主が確認できる機会をつくるのか、条件を見直すのか。それでも通常の仲介が難しい理由がはっきりしてから、買取を比較するのかを考えます。
この順番を逆にすると、必要のない値下げをしたり、安く見せることで問い合わせだけが増えたりします。私が担当した家も、問い合わせは多くても、事情を説明した後に残る方は少数でした。
売却を始める前なら、まず一枚の紙に経緯を書き出してください。すでに売り出しているなら、値下げの前に、内見後に断られた理由と近隣問題の関係を確認した方がいいです。
売却前の判断全体は、次の記事で整理しています。
反響が止まっている家の見直し方は、こちらで詳しくまとめています。
まとめ
近隣トラブルがある家でも、売却できないと決まったわけではありません。ただ、問い合わせ数だけを見て「この価格なら売れる」と判断するのは危険です。事情を説明した後に、買主がどう受け止めるかまで見なければなりません。
私が担当した家は売れました。それでも、購入した方は約1年後に再び売却へ動きました。この経験があるから、私は「説明したから大丈夫」と簡単には言えません。
売主が最初にすることは、近隣住民を評価することではなく、自分が知っている事実を時系列で整理し、仲介へそのまま渡すことです。
参考にした資料
不動産適正取引推進機構「隣接居住者の発する騒音をめぐるトラブル」
よくある質問
Q. 近隣トラブルがある家は売れますか?
売れないと決まったわけではありません。ただし、問題の内容を説明した後に購入を見送る方もいます。価格だけでなく、継続性や生活への影響を含めて売り方を考えます。
Q. 近隣トラブルはすべて買主へ告知する必要がありますか?
一律には判断できません。普通の生活音か、継続する迷惑行為か、相談履歴があるかなどで事情が変わります。売主だけで決めず、知っている事実を仲介へ伝え、個別に説明範囲を確認してください。
Q. 証拠がない場合はどうすればいいですか?
証拠がないことと、知っている事実を伝えなくてよいことは別です。いつ、何が起きたか、誰へ相談したかを分かる範囲で時系列にします。確認できていないことは、確認済みの事実と分けて記録します。
Q. 解決するまで売却を待つべきですか?
必ず待つとは限りません。解決の見込み、トラブルの継続性、買主への説明方法を整理したうえで、待つか、説明して売却を進めるかを決めます。
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