金額面では良い条件だと、ご夫婦から反応をいただきました。それでも、住み替えは実現しませんでした。私が担当した、リバースモーゲージを利用し、家に信託の契約もあった案件です。
リバースモーゲージを借りたら家を売れなくなる、と一律には言えません。ただ、買い手が見つかることと、本人が無理なく引っ越せることは別でした。今回は、売却の条件を探すところから賃貸探しまで進めながら、最後は断念した経緯をお話しします。
大きな家に住み続けるのが不安になったご夫婦
きっかけは、体調の変化でした。年配のご夫婦が、これまで暮らしてきた広い戸建てに住み続けることへ、大きな不安を感じるようになったのです。家の値段だけを知りたいのではなく、これからの暮らしを考える必要がありました。
ところが、その家には既にリバースモーゲージの借入れがあり、信託の契約も結ばれていました。家を売って返せば終わり、という前提では進められません。売却と返済に加えて、信託の手続きや、受託者である相手側の関与も確かめる必要がありました。
売却条件を探す一方で、誰が何を決められるかを確認した
私たちは買主候補の条件を比べ、解体や測量の見積もりも確認しながら、進められる方法を探しました。ご夫婦から、金額面では良い条件だという反応をいただいたこともあります。価格でまったく折り合わなかった、という案件ではありません。
ただ、こちらで良い条件の買主を探しても、そのまま売主さんの希望だけで相手を決め、手続きを進められるとは限らない。信託のある家なので、相手側が進める手続きとの調整が残ります。「この条件なら売れそうです」の先にも、確認しなければならないことがありました。
信託を終了するには何が必要なのか。いくらを、いつまでに支払う必要があるのか。当時も、その確認を進めていました。こうした計画では、売却代金を受け取る前に支払う費用があるか、あるならいくらかまで整理したいところです。手取りの総額だけでは、支払いに間に合うかが分からないからです。
一度見送ったあとも、次の住まいを探した
ご夫婦は、次の暮らしにも不安を感じていました。集合住宅に移ったときのテレビや会話の音、近隣への気遣い。広い家を離れれば不安が全部なくなるのではなく、別の不安も出てくるわけです。
一度は、住み替えを見送るというお話がありました。それで全てが終わったわけではなく、その後も検討が続き、引渡しまでの猶予を調整したり、賃貸の資料を案内したり、保証会社の事前確認を進めたりしました。
私も、自分の両親に提案するつもりで考えていました。売れる条件だけをそろえて、あとは引っ越してください、では済まない。移った先で暮らしていけるかまで、ご夫婦にとっては一続きの話だったからです。
最後は、手続きのハードルと賃貸が見つからないことで断念した
結局、そのご夫婦は住み替えをやめました。契約や手続きのハードルが高いことに加え、賃貸の住まいも見つからなかったためです。売却の条件を探し、引渡しや移転先も検討しましたが、実際に移れるところまでは持っていけませんでした。
私には、ご夫婦がただ気軽に「やめよう」と選んだというより、いくつもの条件が重なり、やめざるを得なくなったように感じられました。家という大きな資産がある。それでも、その資産を使って次の暮らしへ移ることが簡単ではない。ここが、この案件で強く残っているところです。
住み替えを考えるときは、売却だけを先に決めず、親の次の住まいと売却代金を受け取る時期を一緒に確認してください。契約上は進められても、本人が暮らせる場所が確保できていなければ、計画はつながりません。
リバースモーゲージ利用後も売却できる場合はある
この実録から、「リバースモーゲージを使うと、どの家も売却できない」と考えるのは違います。たとえばりそな銀行・埼玉りそな銀行のFAQは、引渡しと同日までに融資を完済すれば、売却手続きを進められると案内しています。これは同商品の条件です。
住宅金融支援機構の「リ・バース60」の案内にも、本人の生存中に担保物件を売り、売却代金等で債務を完済する場合は、事前に金融機関へ連絡する手続きが示されています。借りている商品が違えば、返済や売却の条件も、自分の契約に戻って確かめます。
今回のご夫婦の案件では、借入れだけでなく信託もありました。融資の返済条件と信託の手続きを分けて確かめる場面です。他の商品のFAQに売却できると書いてあっても、それだけで自分の家の手続きを決めないでください。
信託の契約があるなら、返済額だけでは分からないことがある
信託では、財産を託された受託者が名義人となり、管理や処分などを行います。一方で、受託者には受益者のために仕事を行う忠実義務や、自分の財産と信託財産を分けて管理する義務もあります。信託協会の「受託者の義務」で説明されている仕組みです。実際にできることと処分の条件は、契約の定めと合わせて確かめます。
だから、見るべきなのは「信託だから安心」「信託だから危険」という名前の印象ではなく、実際の契約です。今回確認した書類でも、本人の指図や受託者による処分に条件がありました。本人にも受託者にも、何でも自由に決められるという内容ではありませんでした。
- 自分で探した買主へ売りたい場合、誰の承諾と、どんな手続きが必要か。
- 借入れを完済することと、信託を終了させることは、どの順番で進むのか。
- 返済以外に必要な費用は何か。金額、支払先、支払日を確認できるか。
- 売却を途中でやめる場合や、予定どおり引っ越せない場合はどうなるか。
契約書の一部分だけで終了の可否を決めず、信託契約の終了条項、融資契約、担保に関する書類をそろえて確認します。説明に納得できない条項や当事者間で解釈が違う箇所は、契約書一式を持って、その分野を扱う弁護士へ確認してください。
借りる前なら、保険の契約者貸付なども比較に入れる
目先のお金が必要なことはあります。ただ、そのときの資金を用意する方法が、将来の住まいの選び方にまで影響するなら、家を担保にする前に、ほかの方法も並べて考えたいところです。
たとえば、加入している生命保険の契約者貸付です。日本生命の契約貸付制度の説明では、解約払戻金の所定の範囲で借りる仕組みになっています。ただし、利息がかかり、返済がない場合には保険契約の失効・解除につながることもあります。
まず自分の契約で使えるかを保険会社に確認し、利用可能額、利率、返済方法、保障への影響を聞いてください。保険から借りれば必ず有利、という話ではありません。必要額と必要な期間を満たせるか、返す見通しがあるかを比べるための候補です。
このご夫婦が、その方法を使えたということではありません。これから契約を考える人には、家を使った借入れ一つに決める前に、手元資金、加入済み保険で利用できる制度、住まいを売って小さくする案などを、生活を続けられる条件まで含めて比較してほしいと思います。
借りられる金額より、途中で家を売る条件まで聞いておく
家を売ればまとまったお金が入るとしても、入金前に支払いが重なることがあります。費用は合計額だけでなく、実家じまいで何をいつ支払うかに分けて整理してください。返済、契約に伴う費用、引っ越し先の初期費用を、同じ日程表へ書き出します。
これから借りるなら、「将来、体調が変わって引っ越したくなったらどうなるか」を、契約前の質問に入れてください。既に借りているなら、売買契約を急ぐ前に、金融機関へ返済・売却の手順を確認し、信託がある場合は受託者にも手続きと費用を書面で確かめます。
小金井で実家の売却を考える方は、家の価格と売り方を比べるための確認事項も合わせて整理してください。希望価格だけでなく、いつ移れるか、費用を払ったあと何が残るかまでが、本人にとっての売却条件です。
私がこの実録で伝えたいのは、「いくら借りられるか」の説明で判断を終えないでほしい、ということです。今のお金を用意する契約で、将来どこへ住むかまで動かしにくくならないか。そこまで確認してから選ぶことが、家を持つ本人と家族のためになると考えています。
アイキャッチは書類整理を表すAI生成イメージです。実際のご夫婦の家や契約書ではありません。

